はせる

は・せる、馳せる

念を送る

 神田駅で山手線から中央線に乗り換え、座席に座る。今朝はやや空いていた。隣も目の前も空席……と、私の視界の中に虫がいた。目の前の座席の下に少し大きめの蛾。羽は傷ついていて、座ったまま暫く観察しても動かないので、もしかしたら死んでいるかもしれない。かわいそうに、こんなところで……と思っていると御茶ノ水駅に着いた。総武線からの乗り換えで人が乗り込んでくる。当然、目の前の座席にも座る。男性。蛾の存在には気づいていない。踏むなよ、踏むなよ……と念を送る。少し足が当たったように見えたけど、蛾は動かない。やっぱり死んでいるんだろうか。と、いうところで四ツ谷駅。「そこ、蛾がいますよ」と言えるわけもなく下車する。

 もしカブトムシやクワガタムシのような飼育することができる虫がいたのであれば、気づいたときに突いてみたりして生存確認をしていたと思う。生きていれば外に連れ出すこともできた(ブランクがあると躊躇するものだけど、最近、息子のおかげで再び虫を触れるようになってきた)。生存確認をしなかったのは、綺麗な蛾は存在するけど、それでも飼ってみたいとまでは思わないので、たぶんその違いだったのかも。ただ、生きていたとしたら申し訳ないことをした、と今は思っている。

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