はせる

は・せる、馳せる

monochrome eyes

Untitled

 初めてのモノクロ。少しぎこちなさが紛れ込んでいるような。

 目を覚ますと、時計はもう10時を指していた。洗濯機を回してから顔を洗い、たっぷりの牛乳に浸したシリアルを食べた。髭は剃っていなかったが、今日は気にしないことにして小説を開いた。

 午後には雨が降った。生乾きの洗濯物を取り込んで、除湿器のスイッチを入れる。グラスにミネラルウォーターを注いで部屋に戻り、再び小説を開く。一瞬頭の中を何かが過ぎり、ふと小説から目を上げるとテーブルの隅に置かれたハッセルブラッドと目が合った。少し考えるふりをして、窓の外の暗く曇った風景に目を向ける。
 雨か、と僕は言った。……いや、言わなかったかもしれない。
 憂鬱? とそれが訊ねる。
 いや、そういう訳でもない。まあこんな日も良いさ。
 少し出掛けましょうか。それは僕を見ながら微笑んだ。
 どうして? と僕は言う。濡れてしまうよ。
 雨が降っているからよ。それは微笑みを絶やさずに答えた。
 なるほど。そう言って、僕は小説を閉じた。

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