春、と僕は思った。
季節は廻って、いろいろなことから一年が過ぎたことになる。僕はこの一年間に、やれるだけのことをやれただろうか?
自分自身にそう問いかけたって、答えなんてわかるはずもない。そもそも、そういった事柄には合格点も無ければ落第点も無いことを理解している。だから、考えようによってはすべてが及第点となり、次のクラスへパスすることが出来るのだ。
それでも自問する必要がある。
それは僕がこの一年間で得たもの、そして失ったものが、これまでに比べてとてつもなく大きかったことに起因するのだろう。そして、過去を振り返る場合、大概は失ってしまったものに対して考えを巡らすものだと思う。
嘆いているわけではないし、落ち込んでいるわけでもない。存在の抜け殻のようなものを記憶の書架に仕舞う為に、次の季節へパスする為に、僕にとってそうすることが、本当に、必要なんだ。
桜の花を見上げる視線を、ふと下に落とす。年月を経て風味の増した、少し酸味のあるワインが、僕の様子を窺っていた。