記憶の書架の中から、読み終わった本を久しぶりに手に取ってぱらぱらと捲ってみる。
一年前、僕に「ありがとう」という言葉の温かさを教えてくれた人は、もう側に居ない。あなたが僕に残してくれたものは、とても大きなものなんだと改めて実感する。
僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける(中略)でも僕らの頭の中には、たぶん頭の中だと思うんだけど、そういうものを記憶としてとどめておくための小さな部屋がある。きっとこの図書館の書架みたいな部屋だろう。
村上春樹 - 海辺のカフカ(下)
あなたと居た時間は、失わないように記憶の書架に大切に仕舞ってある。読み返す機会はこの先徐々に減って行くんだろうけど、それはきっといつまでもそこにある。
感謝の気持ちを伝えたいのに、あなたはもうそこには居ない。もし伝える機会があったとしても、「ありがとう」だけでは感謝の気持ちを伝えきれないんだ。
そして僕は本を閉じ、大切にそれを仕舞い、新しい本に手を掛ける。