映画『永い言い訳』を観たよ。幸夫の人生はこの後どうなっていくんだろう。
画像は「映画『永い言い訳』本予告 - YouTube」のキャプチャ。
思い切りネタバレします。
映画『永い言い訳』
2016年製作。2月20日、Amazon Prime Videoにて視聴。
あらすじ
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(きぬがささちお)は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族―トラック運転手の夫・陽一とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。保育園に通う灯(あかり)と、妹の世話のため中学受験を諦めようとしていた兄の真平。子どもを持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き出すのだが・・・
感想
西川美和監督の映画は初めて。感想を言語化するのが少し難しいけど、心に沁みる、とてもいい映画だった。と思う。観てよかった。
序盤の幸夫は自分のことしか考えておらず、妻・夏子が亡くなっても自分が世間にどう見えているかが一番の関心事。不倫相手が「密会中に事故死したという罪悪感」から眠れなくなって訪問してきたときにも、彼女の話など聞きもせずに自分のためにセックスを迫る。物書きとしてはスランプで、夏子を失った体験を書いてみたらどうかと提案する編集者にも辛く当たる。幸夫が利己的に生きる様子が映画序盤は続くので、とても辟易する。それでも、夏子の親友の遺族である大宮家の父・陽一、兄・真平、妹・灯との交流から人間としての暖かさを宿していく、という流れに入ると、幸夫の様子や表情の変化に、見ているこちら側も幸せを感じ始める。前半と後半の幸夫は、もう別人というレベルで見違える。
序盤の幸夫が「人間じゃない」「人でなし」みたいなひどい言い方になっているけど、でも、全くもって幸夫のことがわからないかというと実はそうでもなくて、自分の身を振り返ってみて、重なる部分では反省することしかできない。
終盤、汽車の中での真平と二人きりの会話から、幸夫が独り汽車に乗り込み帰路につくまでの一連のシーンは、会話も情景も音楽もとても美しい。その会話や、帰りの汽車の中で幸夫が涙しながら書き出す「人生は、他者だ。」などの言葉は、序盤の幸夫だったら嘘くさく感じただろうけど、この時点ならば「そうだね……そうだね」としんみりとした。
陽一の事故の知らせを受けた直後の電話では「真平くん」と呼んでいたのが、汽車の中では「しんちゃん」になっていて、幸夫がどれだけ真平くんや灯ちゃんのことを親身に思っているのかがわかる。こういった機微も丁寧に描かれていていい。
夏子の遺品を整理して仕舞い込むシーンで終わる。幸夫はこれからの人生を改めるのではないかと思う。ハッピーエンドやバッドエンドではなく、はっきりとメッセージを置いて終わるものではないけど、人生の苦さを感じる様な終わり方で、とても好きだ。
映画を見た翌日に、珍しく(部分的ではあるけど)もう一度見た。冒頭、散髪後に夏子が幸夫に投げかける言葉(これが最後の会話となる)「悪いけど、後片付けは、お願いね」にドキッとした。始まりに、終わりが示唆されているのかな。それは考えすぎか。
以下雑感。
- この映画を結婚記念日に見た(ひとり)。
- 幸夫が大宮家の子供らの世話をしようと思った切っ掛けは、文章が浮かんできたことだと思う。
- 本木雅弘(as 衣笠幸夫)、演技はもとより、(特に汽車のシーンでの)雰囲気すごかった。
- 竹原ピストルは、大宮陽一が実在するかのような真に迫る素晴らしい演技。というか、竹原ピストルのイメージそのもの。
- 灯を演じた白鳥玉季は当時6歳ぐらい。この映画は彼女のキャリア初期に当たるけど、演技が自然。すごい。
- 深津絵里(as 衣笠夏子)と堀内敬子(as 大宮ゆき)。出演時間はちょっとだったけど、印象にすごく残る。
- おそらく担当編集の岸本(演:池松壮亮)はいい仕事をしている。
- 葬式の直後に幸夫の元に掛かってくるスピリチュアル的な電話、あれが木村多江(as 安藤奈緒美)。
- 小説は未読、こうやって感想を書いているうちに読みたくなってきた。
- ポスターやDVDのジャケットを見て、余計に切ない気持ちになる。
予告編
関連リンク
- 永い言い訳 - Wikipedia
- 永い言い訳 : 作品情報 - 映画.com
- 永い言い訳 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
- テーマ「利他」一冊目『永い言い訳』ほか - 小さな鳥たちの読書会 - Radiotalk(ラジオトーク)
※Filmarksに投稿した感想を転載して体裁を整えたものです。基本的にはFilmarksの方が最新の内容です。